女性ホルモンと漢方 ~あなたのつらい症状は更年期症状かもしれません~ 包 海燕中医学講師。内モンゴル医科大学中医系卒業。1991年に来日し、東京医科大学精神科教室にて博士課程修了。「漢方薬と脳内アミノ酸の関係、特に抑うつのメカニズム」を専門的に研究。現在、日本中医薬研究会専任講師として中医学の普及に努める。著書に「可愛い赤ちゃんをあなたに」「ストレスにやさしい生薬のいろいろ」など。

ある日突然、自分が自分でなくなる更年期は、40代から50代の女性誰もが経験する心と体の変化です。

日々の漢方相談では、更年期に入った女性の切実な悩みや心の叫びをたくさんお聞きしてきました。更年期になっているのが本人にもわからない、家族にもわからない。物忘れがひどくなったり、疲れやすくなったり、白髪が急に増えたり、鏡を見てなんでこんなになっちゃったの、生理はまだ止まっていないのに、何か悪い病気なんじゃないかしら、家族は私のこと誰も理解してくれない、病院でいろいろ検査したけど専門が別でよくわからない、原因がわからないから不安で落ち込むし、集中力もやる気も出ずに、自信がどんどん消えていく、理解されないから人間関係も悪くなってくる…あなたのつらい症状は更年期症状かもしれません。女性の加齢に伴って現れやすい不調をチェックしてみて下さい。あなたはいくつ当てはまりますか?

「加齢に伴って現れやすい不調」簡単チェック
  • 1: ホットフラッシュ(顔のほてり・発汗)
  • 2: 腰や手足が冷えやすい
  • 3: 肩こり、腰痛、手足の痛み
  • 4: 理由のない不安感や絶望感
  • 5: 寝つきが悪く、眠りも浅い
  • 6: イライラしやすく、怒りっぽい
  • 7: 疲れやすい、息切れ、動悸
  • 8: 頭痛、耳鳴り、めまい、吐き気
  • 9: お肌のたるみ・シワ・シミ・くすみ
  • 10: 白髪、髪の毛が細い、少ない
女性ホルモンのはたらきと更年期

女性の一生は女性ホルモンの分泌量に大きく影響を受けています。卵巣から分泌される女性ホルモンは、女性らしさに関係するエストロゲンと妊娠に関係するプロゲステロンのふたつがあります。特に、エストロゲンの作用には、生殖器、乳房、体温、骨、循環器・脂質代謝、皮膚、精神面へのすばらしい働きがあり、女性が生き生きとした日常生活が行えるのも、エストロゲンの作用が大きく影響しています。


ところが、40歳を過ぎて卵巣が老化し、エストロゲンが減り始めると、脳の指令に卵巣が応えられなくなり、その結果、脳がパニックを起こして体温調節機能や精神状態が不安定になり、自律神経失調時と似たような不調が出てきます。このホルモンのアンバランスに体が慣れるまでの10年間が更年期です。


そして、この大きな変化(身体的要因)に加え、心理的要因(性格)、環境要因(家庭・職場環境、ストレス)によって心身のバランスが乱れ、さまざまな「更年期症状」といわれる不定愁訴が現れてきます。また、「更年期症状」は人により重かったり軽かったりと個人差があり、いろいろな症状が重なって現れたり、時期や天候、ストレスによって症状が変動したりします。

年齢に伴う女性ホルモン(エストロゲン)分泌量の変化(イラスト)
更年期を軽やかに過ごす ~中医学(中国の漢方理論)の考え方~

中医学(中国の漢方理論)では、人間を一つの小さな宇宙と見立て、五臓(肝・心・脾・肺・腎)と気(エネルギー)・血(血液)・水(体液)のバランスを整えることを基本と考えています。中医学では、「肝」は血を蔵し、「腎」は精を蔵すると考えており、この「肝血」と「腎精」が互いに滋養しあう関係を「肝腎同源」と言います。


更年期に入ると、「腎精」の不足とともに女性の先天とも呼ばれている「肝血」が減少し、「腎」の虚火と肝の鬱火が一体となって上昇すると、ほてり、のぼせ、イライラ、怒りっぽいなどの症状が出てきます。また、更年期にストレスが多い場合は、「肝」の疏泄機能が阻害されて症状がひどくなります。これを「腎虚肝鬱」と呼んでいますが、年齢的に家庭内環境や人間関係も一波乱ある時期なので、その影響で症状が重くなる人が多くなるといわれています。

「肝」のはたらき

・新陳代謝のコントロール。栄養分を運び、老廃物を回収する。

・血液の蔵血機能や血液量のコントロール

・筋腱、筋膜、じん帯、爪、目の機能調節

・情緒の安定などの自律神経のコントロール など

「腎」のはたらき

・生命エネルギーの貯蔵庫

・成長や発育のコントロール

・排卵や月経、妊娠など生殖機能

・免疫、骨髄やホルモンバランスのコントロール

・水分代謝のコントロール など

「肝」と「腎」を補って気になる症状を改善

更年期症状が重くなる「腎虚肝鬱」タイプは、子宮と卵巣の若さを保ち、女性ホルモンバランスの乱れを整え、気の巡りをよくして情緒を安定させることが必要です。そのためには、(1)「腎」を補うこと (2)「肝血」を補うこと (3)「肝気」を巡らすことの、3つの方法をよく使います。


(1)「腎」を補う

女性ホルモンバランスの乱れを整え、女性ホルモン低下のスピードを緩やかにするために、それぞれのタイプに合った「補腎薬」で「腎」を補いましょう。

(杞菊地黄丸、知柏地黄丸、二至丸など)

(3)「肝気」を巡らす

気の巡りをよくして情緒を安定させ、自律神経をコントロールするために、「疏肝理気薬」で「肝気」を巡らしましょう。(逍遥散、加味逍遥散など)

他にもその人の症状によって様々なタイプがあります。人間の体は複雑です。自分に合った漢方薬を見つけるには、ぜひ専門家に相談して下さい。

ひとりで悩まずにぜひ漢方専門店に行ってみて下さい

更年期の女性は、話を聞いてくれる場所がなかったとよく言われます。中医学では「弁証論治」という方法を用いますが、漢方専門店は詳しくお話を聞いて、ひとりひとりのお悩みに合ったお薬の選択や日常生活の注意点など、まとめてアドバイスできます。ホルモン補充療法など、治療方法は様々ありますが、できるだけ自分に合ったやさしい方法を選択しましょう。

更年期の"更年"とは「年を改める」という意味です。加齢現象を受け入れ、自分を見つめなおし、自分の人生と向き合うチャンスです。老いへの漠然とした不安ほど、自分を追い詰めることはないかも知れません。打開策は自分で動き出すことでしか得られません。ひとりで悩まずにぜひ漢方専門店に行ってみて下さい。

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